【自作小説】魂命

自作小説

戦闘シーンを書きたいと思って書いた作品。

短くてサクッと読める話になっています!

スポンサーリンク

魂命

静寂に支配された、満月が照らすある日の夜。

古ぼけた民家の屋根の上で、ノエルは胡坐をかき頬杖をついていた。

(今日はどうしようか……)

整った顔立ちに、風に揺れる銀の髪。

全身は逞しい筋肉に包まれている。

見た目からして二十代前半くらいだろうか。

「ふあぁーー」

欠伸をして開いた口からは、通常の人では考えられない長さを持つ、鋭い犬歯が覗いていた。

実際、彼は人間ではない。

ノエルは『ソルハイク』と呼ばれる強大な力を持つ種族であり、食料の代わりに「魂」を喰らって生きている。

ソルハイクがこの地上に生まれた当初は、夜な夜な人間の魂を奪ってひっそりと暮らしていた。

だがそんな時、人間ならざるもう一つの種族が生まれた。

それが『デ二スト』と呼ばれる「命」を喰らって生活している、並外れた生命力を持っている種族。

この二種類は数百年前から繁栄し始め、その個体数を急速に増やしていった。

だがある時、問題が発生した。

両種族は生きる為の糧として、脆くて狙いやすい人間を仕留めていた。

人間の生殖能力は目を見張るものがあるが、それ以上のスピードで数は減って行き、遂には滅びてしまったのだ。

そして現在。

この世界に存在するのはソルハイクとデニストだけになってしまった。

お互い生き残るために争うようになり、魂または命を奪い合う世の中へと変貌して行ったのである。

生活の様子はと言うと家こそ構えているものの、常に敵に警戒して過ごしているという、何とも疲れる日々を送っているのであった。

そんな中、今日の獲物をどうしようかノエルは考えていた。

家を壊して直接侵入しても良いのだが、それだと騒ぎはあっと言う間に広がり、後々厄介なことになる。

だからと言って正面からぶつかっていくのも、それはそれで面倒くさい。

いつもは外を歩いている隙だらけのデニストを狙っているのだが、最近だと警戒しているのか外を歩く人影もめっきり減った。

そんな事を考えながら、ぼーっと遠方を見ていると、数十メートル前方上空に一つの影が現れた。

「ん?」

目を凝らして見てみると、どうやら長いコートを纏っているようだ。

その影はふわりと舞い降りた。

暗さではっきりとは分からないが、ノエルをじっと見つめているように感じられる。

コートから伸びた手に握られているのは、三日月状の鋭利な鎌。

その鎌に気を取られた瞬間……。

ノエルは本能的に危険を感じ、その場から跳躍して離れた。

と、ほぼ同時に先程までいた場所には飛来してきた鎌がめり込んでいる。

あまりに突然の出来事にノエルは驚いた。

だがそれも束の間、鎌の元には先程の黒い影が現れていた。

ロングコートのフードを外すと現れたのは、闇に溶けてしまいそうなぐらいの漆黒の長い髪と、幾分幼さが残る顔立ちの一人の少女。

血のように赤く染まったその瞳は鋭く細められ、ノエルを睨んでいる。

「おいおい、お前いきなり何なんだよ」

「お前が…………った」

「えっ?」

少女が発した声は、殆ど聞き取れない位小さかった。

「何だって?」

「お前が弟を奪ったっ!!」

肌でびりびりと感じられる位、怒気を含んだ言葉。

少女の頬には涙が伝っていた。

「弟? ……何のことだか分かんねぇな」

「ふざけるな! お前は私の弟の魂を奪った! お前は私が殺してやる」

最後の方は怒りからなのか悲しみからなのか、声が震えていた。

この時ノエルはようやく状況を理解した。

ソルハイクであるノエルは魂を喰らう。

なので過去に喰らったデニストの中に、この少女の弟がいたのだろう。

「事情は何となく分かったが、それは仕方ない事だろ? お前らだって俺達の命を奪っているんだ。お前が言えたことじゃないだろ」

「黙れ! そんなことは関係ない」

完全に頭に血が昇ってしまっているとノエルは感じていた。

こうなっては鎮めるのは難しいだろう。

「あんたの名前は?」

少女は予想外の言葉に呆気に取られている様子だったが、直ぐにその険しさを取り戻した。

馬鹿にされたと捉えたのか、少女からは髪が震える程の怒気が発せられている。

「ヒナミだ! その命に刻んで潔く散れ!」

言い終わるが早いか少女は、勢いをつけた鎌を横に薙いだ。

咄嗟にノエルは大きく後ろに跳躍して回避した。

距離を取ったのも束の間、そこには命を刈ろと鋭い刃が上空から迫っていた。

「危ねっ!」

ノエルは、数歩後ろに下げた右足を軸に引き寄せるようにして、身体の重心の位置をずらした。

寸前まで頭があったポイントには銀色の刃が一閃し、家の屋根に深々と突き刺さっている。

(冗談じゃねえぞ)

命の危機に、額からは汗が滲んでいる。

向こうは武器持ちに対してこちらは素手。

だが間合いを考えたら……。

「おりゃっ!」

ヒナミは突き刺さった刃を抜こうと気を取られていた。

その隙を狙ったノエルのボディーブローが迫る。

だがそれは空を切るに終わった。

握った柄を軸に回転し、回避したのだ。

そしてその勢いのまま蹴りが炸裂した。

「ごっ」と鈍い音が響いた。

ノエルは左腕でその攻撃を防ぐと、目にも止まらない速さで右腕の一撃を繰り出す。

「がっ!!」

見事にヒナミの頭にヒットし、その華奢な身体は叩きつけられた。

(脆いもんだな)

見ると頭から多量の血を流しており、再び立ち上がることはなさそうだ。

「お疲れさん」

後ろ手にひらひらと手を振って、ノエルはその場を立ち去ろうとした。

だが僅かに聞こえた布がすれる音に振り返ると……。

「のぁっ!?」

ノエルは上半身を反らしその一撃を交わした。

鼻の先数ミリの位置を、刃が通り過ぎて行った。

回避された事実にヒナミは眉一つ変えず、勢いを殺すことなく流れるような動きで鎌を振り上げると上段から斜めに切りにかかった。

「くっ」

ノエルは咄嗟に飛びいて避けたかに見えた。

だが左足の脛に浅く入り、その血を散らす。

そのまま後ろに大きく跳躍し、数メートル離れた家の屋根に着地した。

手で怪我をした足を押さえており、その表情は苦悶に歪んでいる。

(まだ生きてんのかよ!?)

渾身の一撃が入ったのだから、そう思うのも無理はない。

だがヒナミは『デニスト』の少女。

その生命力はノエルと比べたら並外れた程満ち溢れている。

しかし動揺したのも一瞬。

「ぶっ飛ばしてやらあぁぁっ!!」

気合いの雄たけびを上げたと同時に、一瞬でその右腕は一回り以上も太くなった。

素手で大砲の弾を打ち出すかのように、目にも見えない速さで腕を突き出した。

瞬間、空気が震えた直後、ヒナミが立っていた家の上部が大きく抉れた。

「……!!」

その一撃を直に受けたヒナミは、家々に身体の至る所を激しく打ちつけながら大きく吹き飛んだ。

「はぁ……んぁあ……もう終わったか?」

辺りからは何事かと様子を見に外へ出てくる子供たちの姿がちらほらと見える。

一気に力を開放したせいか、ノエルは荒い呼吸を繰り返している。

これ程まで緊迫した戦闘は久しぶりだったかもしれない。

そう思わせられる位、ヒナミは実力を持っていた。

実際、両種族のこのような争いは絶えることなく続いている。

ノエルもこれまで幾度となく戦ってきた。

本来なら勝ったのだからその魂を喰らうのだが、どうもこの日はそんな気分になれないでいたのだった。

理由は相手が、まだ大人とは言えない「少女」だからなのか、それとも弟を殺してしまった罪悪感からなのか。

もやもやとした気持ちを残しつつノエルは顔を上げた。

ヒナミが再び現れないことを確認し、その場を去ろうと背を向ける。

さすがにあの衝撃を、か弱い身体では受けきれないだろう。

(俺もまだまだか……)

怪我した事実を思い出し、苦笑いを浮かべる。

真面目に鍛錬でもするか。

と思った時、何か鈍い輝きを放つものが視界の端に入り込んだ。

ノエルが視線を落とすと、そこには血を滴らせながら、自分の身体を貫いている鎌があった。

「私は死なぬぞ」

耳元で囁かれた、温度を感じさせないヒナミの一言。

その言葉が耳に入り脳で認識した瞬間、ノエルは身が凍るような寒気を覚え、同時に意識が急速に薄らいでいった。

何か発しようとした唇は僅かに震えただけで、それから二度と開くことは無かった。

倒れた身体からは鮮血が広がっていく。

ヒナミは動かなくなったノエルを、静かに見下ろしている。

命を喰らおうとしているのか。

そう思われたが、ヒナミは身動き一つせずじっとしているだけで、その気配はない。

それからしばらく静かな時間が流れた。

相変わらずヒナミが動く様子はない。

だが次の瞬間、突然その瞳が大きく見開かれた。

その原因は、横たわったノエルの身体から浮かび上がる、無数の光のかたまり。

次から次へとそれらは現れては上空へと昇っていく。

一つ一つには僅かに色があり、ぼんやりとした輝きを放っている。

最初それらを何か見定めるかのように見ていたヒナミだったが、やがてその中の一つに手を伸ばした。

無駄な行為に思えたが、実際その手の中には光のかたまりが収まっている。

「おかえり……」

愛おしそうにその光を胸元に抱き寄せ、ヒナミは呟いた。

そして全身から力が抜けたのか、がくっとその場にへたり込んだ。

嗚咽が徐々に大きくなっていき、ヒナミはその光をもう離さないとばかりに、更に強く抱きしめた。

何かを感じ取ったのか、その光は一回大きく瞬くと、ゆっくりと空気中へと霧散して行った。

突然の出来事に、ヒナミは茫然としている。やがて事態を理解したのか、顔は悲痛に歪んでいき……。

「うああぁぁぁっ!!」

ヒナミの叫びは周囲の静寂を打ち破って大気を震わせ、やがて闇へと溶けて行った。

一度、ソルハイクによって捕らわれた魂は、元の身体へ戻ることはない。

それをヒナミも分かってはいた。

分かってはいたのだが、もしかしたら奇跡が起こるのではないか。

その思いがヒナミをここまで突き動かしたのだった。

その希望が打ち砕かれた今、その心にあるのは深い絶望感のみ。

この夜、一人の少女の泣き声が止むことはなかった……。

 

良ければクリックしていただけると、やる気に繋がります!↓
ブログランキング・にほんブログ村へ 

自作小説
スポンサーリンク
naiadをフォローする
猫が教える生活の知恵
タイトルとURLをコピーしました