【自作小説】メルトリアへようこそ

文章関係

今までに40作品以上の小説を書いてきたのですが、その内の1つを公開してみました。

短い分量なので、時間かからず読めると思います。

内容は、この世とあの世の境にある喫茶店を舞台にしたファンタジーものです。

暇つぶしにでもどうぞ。

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メルトリアへようこそ

ここはどこなのだろうか。

ちょっと前まで、どこか別の場所にいた気がするんだけど。

………………。

思いだせない。

辺りを見渡してみると一面真っ白な世界が広がっている

唯一ある「物」といったら、目の前に立っている一軒の建物。

これは夢という可能性が大きいが、こんなに意識がはっきりしているものなのだろうかとも考えてしまったり。

建物の前には『メルトリアへようこそ』と書かれた看板が立っている。何かの店らしい。

他にする事も行く場所もないし、俺は取り敢えず入ってみる事にした。

 

扉を開けると、取り付けられている鐘がカラカラと心地良い音を鳴らした。

「いらっしゃい」

俺が入って行くと、落ち着いた雰囲気の女性の声が出迎えてくれた。

薄暗い室内にはテーブルが数個設置されており、店内は外から見た時よりも若干広く感じられる。

部屋の隅には観葉植物が置かれ、壁にはこの店の主のセンスを疑ってしまうような絵画が何枚も飾られている。

「ふん、失礼しちゃう」

「?」

突然聞こえたそんな声に俺は辺りを見渡した。

するとカウンターの向こうに立っていた女性がこちらを見ていた。

マスター? なのだろうか。他に店員らしき姿は見当たらない。

胸元が大きく開いた大胆なデザインの、黒いロングドレスを着ており、綺麗な黒髪はアップにしてまとめている。

少し垂れ目気味の瞳には独特の色気があった。

唇には真紅の口紅が塗られ、つやつやと輝いている。

見た目からして恐らく二十代後半といった所だろうか。

正直この店内の雰囲気に服装が合っていない気がする。例えるなら夜のお店にいそうな……。

「さっきから失礼な事言う少年ね。私は水商売なんてしないわ」

「!?」

声に出していないのにどうして。まさか心を読んだとでもいうのだろうか。

「そのまさかよ」

「なっ……」

女性は俺の反応を見て面白そうに笑みを浮かべている。

冗談で言っているようにも感じられない。実際思っていた事を当てられてしまったし。

「さあ、ここの席にどうぞ」

指定されたカウンター前の席に恐る恐る腰かけた。

他の客は、離れたテーブル席に座っている男性の老人一人だけ。

俺と同じく真っ白な世界に迷い込んでしまい、この店にやってきた人なのだろうか。

視線をカウンターへと戻し、質問してみた。

「あの、ここは一体……」

「ここは私の店よ。私の事は香苗と呼んでくれて構わないわ」

「知りたいのは店の事じゃなくて、外に広がってる白い空間のん!?」

香苗さんの人差し指が唇に押し当てられ、言葉を遮られてしまった。

「そんなに焦らないの。取り敢えずこれでも飲んで落ち着きなさい」

そう言って湯気の立つカップを目の前に置いてくれた。コーヒーの良い匂いが鼻をくすぐる。

「頂きます」

一口飲むと温かい流れが身体にしみ込んで行った。う……かなり苦い。

ブラックは苦手なんだよなぁ。いつもはスティックシュガーを二本入れてちょうどいい位だ。

でも今更文句も言えないので、続けて口に含んだ。

ようやく半分ほど飲んだ所でふと、香苗さんが俺の事をじっと見ている事に気付いた。

「なんですか?」

「男の子だから苦い方が好きかなとか思ってたけど、そうじゃなかったみたいね。ごめんね」

「あっいえ、全然大丈夫です!」

慌てて言い返すと、残ったコーヒーを一気に飲み干した。

苦味が口一杯に広がり、思わず眉をひそめてしまった。

視線をテーブルに向けて、俺は思った。

カップの横にはステッィクシュガーが置かれている。しかも二本。

ブラックが苦手なのに気付いて先程、香苗さんが置いてくれたのだ。

でも俺は『欲しい』とは口に出していない。それに苦いのだったら砂糖じゃなくてミルクを入れる人だっている。

まただ。また心を読まれた。

「ごめんなさい。勝手に心を読んじゃって。私の悪い癖なの」

「!?」

香苗さんは頬に手を添えて悩ましげな表情をしている。

この人はどうやら本当に俺の考えている事が分かるらしい。

「不愉快な気分にさせちゃってごめんなさいね。もうしないわ」

「はぁ……、そうですか」

何とも気の抜けた返事をしてしまった。

突然、心を読んでいたなんて言われてもどう反応していいのか分からない。

「あなた突然こんな場所に来ちゃって驚いたでしょ」

「そりゃまあ。いきなり見知らぬ空間に来ちゃったんですから」

「そうよねぇ。ここに来られた皆さんがそう言うわ」

「今までに何人もこの店に来てるんですか?」

「ええ。もう数えきれない位」

これは俺の夢だよな? そういえばコーヒーの味といい、香苗さんの存在感といいあまりにリアルすぎる。

「この場所はね、迷える人達の憩いの場なの。突然だけど、あなたには大事な人はいる?」

「彼女がいますけど」

「そう。……ねえ、彼女さんと私どっちが綺麗?」

香苗さんは豊満な胸を突き出し、俺にアピールしてくる。

恥ずかしさから耳が赤くなって行くのを感じた。

「ふふっ。冗談よ。彼女さんの事はもちろん大事にしてるわよね?」

「もちろん」

まったくいい年してからかうのはやめてほしい。

「なら尚更あなたは戻らなくちゃね……」

「え?」

言葉の最後の方は殆ど呟くような声だった為、聞き取れなかった。

「ねぇ、人間はどうして命があるんだと思う?」

「どうしてって言われても……。生きる為じゃないですか?」

「じゃあ命が終わった人はどこに行くと思う?」

この人は一体どうしてこんな事を言ってくるのだろう。

「天国か地獄ですか?」

「そうね。人間界では天国とかは空想上の存在かもしれないけど、恐らく存在するわ。といっても行った事はないのだけれど」

「えっ……」

話の意図するところが読めない。俺に一体何を伝えたいんだ。

香苗さんはカウンターに置かれていた砂時計を手に取ると、「ほっ!」という小さな掛け声と共にいきなり空中に放り投げた。

地面に落ちる筈だった砂時計は空中で停止している。驚きの光景に俺は見入っていた。

「手品ですか?」

「ふふっ。違うわよ。いつの間にかこんな不思議な能力が使えるようになってたの。さっきあなたの心を読んだ能力もその一つ」

「香苗さんは一体……」

不思議な力を使うのを止めて砂時計を元あった位置へと戻すと、香苗さんは頬杖をつきゆっくりと話し始めた。

「私は現世で命を落として、この空間に来てしまったみたいなの。心に残ってたのは、ある一人の男の人の顔。恐らく現世での彼氏だったのかしらね。どうやら凄い未練があるみたいなの」

「はあ……」

香苗さんは少し辛そうな笑みを浮かべている。そして「自分の気持ちに確証が持てないなんて変よね」と言った。

「今になって感じるけど、生物って弱い存在よね。呆気なく死んじゃうんだから」

? 何だろう。愁いを帯びた瞳からはどこか慈愛というか、心が包みこまれるかのような強い力を感じた。人間ではないような圧倒される存在感というか……。

とその時、店内に心地良い鈴の音が響いた。店内を見てみてもどこから鳴っているのか分からない。

「あら、時間だわ」

香苗さんはカウンターから出て店にいるもう一人の客である、お年寄りの元へと近付いて行く。

「お爺ちゃんお迎えが来ましたよ」

おじいさんは理解出来ているのかいないのか微妙な反応を示すと、ゆっくりと立ち上がり、杖をつきながらゆっくりと香苗さんと共に店の扉へと向かって行った。

やがて辿り着いて香苗さんがゆっくりと扉を開けると、眩いばかりの光が入り込んできた。

「!!」

思わず目を細めた視界の中、おじいさんはゆっくりと光の中へと進んで行き、やがて姿が見えなくなった。

扉が閉じられると、再び薄暗さが室内に戻ってきた。

おじいさんはどこに行ったのだろう。それにさっき香苗さんが言っていた『お迎え』とは。

「あのお爺ちゃんはきっと天国に行ったのよ」

「天……国?」

「ええ。現在私達がいる空間はね、あの世とこの世の狭間らしいの。何かしらの未練があって成仏できない人が彷徨って辿り着く場所」

語る香苗さんの表情はどこか話しにくそうに感じられた。

「いつ、どうやってここに来たのかなんて今となっては思いだせない。というよりここにどれくらいの年月いるのかさえ分からない」

「それはどういう事ですか?」

「私はもう人間じゃないし、天使みたいな高貴な存在でもない。双方の中間に位置する、不明確な存在」

「でも実際この空間にいるってことは、その内香苗さんにもお迎えが来るんじゃないんですか?」

香苗さんは首を振って否定した。

「私はさっき言った恋人への強い思いがあって、天国に行くのを拒んでいるの。その思いが強いからなのか良く分からないけど、私自身にお迎えが来た事はないわ」

「そうだったんですか……。香苗さんがこの場に来た時にはこの店はもうあったんですか?」

「いいえ。最初はなかったわ。絶望感から泣き腫らして、ふと顔をあげたらこの店が建ってた。まるで私を迎え入れるかのようにね。あまりに私が頑固だから、神様も連れて行くのを諦めたのかもね」

ふふふっと、香苗さんは笑った。

今のような話があり得るのだろうか。

愛する人との繋がりを無理矢理引き裂きかれてしまったら、大きな未練が残るのも分かるが。

「そして私は、これは神様が与えてくださった私の役割なんだと信じて、この店『メルトリア』をやってるの。彷徨ってきた魂をおもてなしして送り出す為にね。それにどこかこのお店『懐かしい』雰囲気がするのよね」

つまりここに俺が来たという事は、命にかかわる事態が起こったからという事になるのだが……。

「あなたはまだ死んでいないわ」

「え?」

「あなたはただ生死の境を彷徨っているだけ。そろそろお迎えが……」

先程と同じ心地良い鈴の音が店内に響いた。

「来たわね。さあ行きましょうか。お見送りするわ」

「生死の境を彷徨っているってどういうことですか! 俺、死ぬんですか!?」

「それは私には分からない。私はお客様をおもてなしして送り出すだけだから、どっちに運命が流れるかは分からない」

「俺は死ぬ訳にはいかないんです! 彼女が待ってるし、まだやりたい事もいっぱいあるし」

「ええ。分かってるわ。だからこそあなたはちゃんと元いた場所へ戻りなさい」

香苗さんはこっちへ来ると俺の手を優しく掴み、扉へと導いて行った。

「じゃあ気をつけてね」

「……はい」

ゆっくりと扉を開くと強い光が俺を照らした。

振り返ると香苗さんはどこか悲しそうな顔をしていたような気がした。

「またいつか会いに来ますよ。香苗さん、それまでお元気で」

俺はそう言い残すと光の中へと進んで行った。

瞬間、足元から地面が消え、落下して行くような感覚が全身を包みこむ。

きっとこの先には俺が帰るべき場所が待っているんだ。

そこまで考えた時、意識が徐々に途絶えて行った……。

 

あの不思議な体験の後、俺は意識を取り戻した。

どうやら交通事故に遭いしばらく生死の境を彷徨っていたらしい。

あれからしばらくリハビリをし、やっと退院する事が出来た。学校にも復帰し、以前と同じ日常生活にやっと戻れたのだった。

そして放課後である今は、彼女である美菜に誘われて学校帰りに町へ遊びに出かけていた。

様々な店が並ぶ通りを歩いていた時、あの出来事の中でコーヒーを飲んだからか、ふと俺は喫茶店に行きたいなと思った。

「そう言えばこの辺りって喫茶店ないよな」

「確かにないよね。前にお爺ちゃんから聞いた話なんだけど、二十年以上前にはこの通りに『メルトリア』っていう喫茶店があったんだって。でも火事で全焼しちゃって、逃げ遅れたオーナーの女性一人が亡くなったらしいよ」

「!? ……ホントか?」

「うん。オーナーさんが凄い美人だったみたいで、近所でも有名だったみたい」

これはどういう事だ? 

あの出来事は夢ではなくて、本当に俺はあの時、『あの世とこの世の狭間』なる場所に行っていたというのか。

今までに感じた事のない不思議な感覚が湧きあがって来た。

「香苗さんが俺をこの世に引き戻してくれたんだ……」

「えっ? 誰、香苗さんって?」

女の人の名前が出てきたからか、美菜はちょっと怒ったような表情をしていた。

でも詳しく事情を話しても信じてもらえる訳ないし。

「ねぇ、誰?」

「秘密」

俺は美菜から逃れるように早足で歩き始めた。

「ちょっとー!」という声と共に美菜が走って追いかけてくる音が背後から聞こえる。

香苗さんとの別れ際に『またいつか会いに来ますよ』と言ってしまったけど、本当はもう会わないのが一番なのかもしれないな。

あそこに行く事は何かしらの未練があるって事だから。

精一杯生きて行こうと改めて誓うと、俺に追いついて横に並んでいた美菜の手を強く握ったのだった。

 

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